紅い記憶
宮城は机の写真をじっと見つめていた。


声をかけた稔に驚きながら振り返った。



「宮城先生、大学生の頃に岸和田先生が研究発表できなかったこと、ご存知ですか。」



稔がそんな事実を知っていることに宮城はさらに驚いている。




「え?あぁ知っているが・・・。」



「桜のお父さんに、宮城先生はどんな感情をお持ちですか」





「え・・。」



「ご自身も何か、嫌な思い出とかあったりしませんか。たとえば・・・同じ人を好きになったりとか。」




稔の言葉に圧倒される宮城。そこまでの話を知っている人物は岸和田だけであったので、稔からそんな話をされるとは夢にも思っていなかったようだ。



岸和田の驚いた顔に、稔は説明をしようと話始めた。



「その写真、大切な写真なんですか。」




稔は宮城の机の上に貼ってある写真を見ながら言った。


宮城は慌てて写真を隠す。



「その写真、桜も持っているんです。中央の女性が月山百合さん、つまり桜の母親だ。
そしてその左にいるのが・・・・宮城先生ですね。」



写真は古ぼけて色あせているうえに、ピントが合っていない。


写真の人物を探しながら、本人がこんなに近くにいるのにこれまで気づかなかったことに、稔は悔しく思っていた。


< 96 / 102 >

この作品をシェア

pagetop