quirk of fate
「じゃ、牧本君。この練習室に入って。後は他の先輩が指示してくれるから」
先輩はそう言うと駆け足で去っていった。
僕は先輩がだんだん小さくなって、第一音楽室に入ってくのを見送ると、浅くため息をついた。
―――この中の人に紹介ぐらいしてくれても……
そう思うのは僕だけじゃないと思う。
だって状況的にきつい。練習室の中の人は女の人ばかり。
少しだけ開いたドアの隙間からそれは伺えた。
甲高い声が教室で響き、外に漏れてくる。
世で言うガールズトークの真っ最中のようだ。
意を決して中に入ることに決めた。
トン、トン。
二回ドアを叩いて、僕はゆっくりドアを開けた。
ギャーギャーと煩かった教室が、僕の存在に気付き静まり返った。
僕の額に冷や汗が走る。
「あ……あの―――」
沈黙に絶えなれなくなり、僕は口を開いた。
教室の端から男子だ、と言う声がボソボソと聞こえてくる。
「君、体験入部の子?男子じゃん!」
背が高く、サックスを持った女の人が近づいて来る。
「男子なんて初めてなんだよねー。何希望?」
「希望?」
どうもこの先輩の喋り方は主語が無いような気がする。
さっきの川野美紀と言う先輩とは大分違って見えた。