One lack
 私はしゃんと立ち上がって、くるりと後ろを振り返る。

 すると目の前に立っていたのは、一人の男子生徒だった。


「……誰?」

「タオル貸してやった恩人になんだよその物言いは~」

「……それは、ありがとうって言ったから駆け引きに出しても無駄」

「ちぇーっ」


 そう口にした彼はすっとした体型に、整った顔立ちをしていて。

 きっとこの少年は女子生徒たちに凄い人気なのだろうと言うのは即座に予想出来た。

 そんな容姿端麗な彼は、まるで太陽が燦々(さんさん)と輝くかのような笑顔を浮かべて、俺さぁ、と口を開く。


「人の顔と名前覚えるの得意なんだけど。アンタの顔と名前が一致してないんだよね。それって悔しいじゃん?」

「……だから?」

「だからー……名前、教えてよ?」


 そんな風に、可愛い子ぶって首をかしげて。

 太陽みたいに眩しい笑顔で微笑まれたら。



 多分、私じゃなくたってぽろりと喋ってしまうと思うんだ。
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