i‐ LOVE

その店の事務所は大都会のメイン通りから一本中に入った雑居ビルの一室にある。


『i‐LOVE』


imitation LOVE…偽物の愛 と名のついたその店は女性に理想のデートを売る。


客層は20代から数は少ないが上はきりがない。

人目のつかない場所にある事務所に客が直接来ることはない。

注文は電話のみ。

日付と時間と待ち合わせ場所を言えばいい。

指名か好きなタイプを伝えれば的確な男性を派遣してくれるこの店はなかなか評判がいい。

常に客からの電話が鳴りっぱなしという訳ではないが、経営に困らない程の客はいる。

客の彼女達はこの店の商品を《デリホス》と呼ぶ。

デリバリーホスト。

自分の好きな場所で刺激と理想を求める現代の女性には必要なビジネスなのかもしれない。




エレベーターを降りて暗い廊下を真っすぐに歩いた突き当たり。

小さなプレート一枚がそこが『i‐LOVE』だと知らせてくれる。

無機質な緑の鉄の扉が外と中を遮断している。

重い扉を開けると中には3つの部屋がある。

一番手前の部屋は店と客とデリホスを繋ぐための部屋。
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