みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
「ひょっとしたら一葉のヤツ……オレに対する恩返しんつもりで、命懸けでオレば助けようとしたんかもしれんな……」
空間の一点を見つめながら各務くんが言う。
その瞳はいま現在やのうて、明らかに過去を見てはった。
「恩返し……?」
「まだオレらが小学3年やった頃、家の前の道路でキャッチボールばしちょったんやけど、捕り損ねたボールを拾いに行こうとした一葉がトラックに轢かれそうになったことがあって……そんときアイツを助けようとしたオレは左足を潰されてしまったったい……」
「…っ!?」
ウチは言葉を失ってもうた。
ソレは、今まで訊こうとしても訊けへんやったこと……つまり“どうして各務くんの左足が義足なのか?”その理由がこない思いがけへんところで分かってしまうたことのショックからやった。
「一葉のヤツ、クチにこそ出さんかったけんど、自分のせいでオレが左足を失ってしまったと思っとったみたいで……だけん多分いつかオレが絶体絶命のピンチに陥るようなことでもあれば、自分の命を捨てる覚悟でオレを助けるつもりやったとやろうな……」
これが世にいう“兄弟愛”ってヤツなんやろうか?