みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
「でも逆に考えれば、治療がまだ続いてるってこつは、一葉に助かる見込みがあるってこつやけん」

「言われてみれば、たしかにそーやなぁ」

そんときウチは、さすが各務くんは頭がええだけあって冷静やな、って思った。

「こないに気持ちは焦っとんのに、ナンもすることができへんやなんて、なんや頭がおかしくなりそうやわぁ……」

とてもやないけど、頭の悪いウチはそない冷静な感じではいられへん。


「そーいえば思い出すな……あんときもちょうどこの病院で、オレも今のよっちゃんみたいに、頭がおかしくなりそうな思いをしながら待合室で待っちょったとよ……」

「えっ……“あんとき”って……もしかして三人で海までサイクリングに行ったときのこと?」

「あぁ……」


小学6年の夏休みのとき、ウチと各務くんと一葉の三人で海までサイクリングに行ったことがある。…といっても左足が不自由な彼は、一葉の自転車の後ろに乗せてもろうてたんやけど。

あんとき海の岩場で磯釣りをしてはるおっさんたちがおって、ウチら三人はやじ馬になって、ナンが釣れたんか見せてもろうてたんやけど、そんときウチは突然、右の頬に突き刺さるような痛みを感じた。
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