みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~

「小学校の卒業式の前日、恋文と映画のチケットもろうたのに、ウチは約束すっぽかしてもうたさかい」

「………」

黙ってうつむく彼の顔には、“触れられたくない過去に触れられてしまった”と書いてあった。


「ヒトには……一葉には“謝れ”なんて言うときながら、ホンマはウチも謝らなアカンことがあってん。各務くん、あんときはホンマにごめんなさい」

ウチは自分でもびっくりするくらいの素直な気持ちで深々と彼に頭を下げとった。

「あ、謝ることなんてねぇっちゃ。コクってフラれるなんてのは、世の中ではよくあることやけん」

ウチに謝られて、逆にオロオロしているみたいな彼。



「…じゃなくて、ウチ……各務くんのことがキライやさかい、約束の場所に行かへんやったわけちゃうねん。ホンマは各務くんのことが好きやってん」



「よ、よっちゃん……」

ウチの発言が彼にとっては意外だったようで、彼はウチのことをまっすぐに見つめた。
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