みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
それがたとえ幼稚な現実逃避やとしても、ウチはどこかで一葉がまだ生きてはると思いたかったんや。
たぶんウチの父なら“ちゃんと一葉にサヨナラを言うことがオトナになるっていうことや”って言うやろうと思う。
せやけどウチはサヨナラは言わへん。
だってサヨナラって言ってもうたら、もうおしまいやさかい。
“サヨナラ”そのひと言をクチにせぇへんかぎり、ウチはまたいつかどこかで一葉に会えるような気がするんや。
だいいち、鼻の穴に白い綿みたいのを詰められた一葉なんて見たぁない。
ウチにとっては一葉は美少年と見間違えそうなくらいの美少女で、そんな彼女の鼻の穴が白くなっとるとこなんて見たぁないんや。
結局、ウチはお葬式には行かへんことを決め、水泳道具一式を持ってスイミングスクールに出掛けることにした。
ツライ現実を素直に受け入れず、居心地のいいプールという安全地帯に逃げ込もうとしとるちゅうわけや。
ホンマの友達なら、たとえどんなに辛うても、ちゃんと最後のお別れをすべきやのに、それをせんと現実逃避をしてまうウチはやっぱり失格な人間やと自分でも思うわぁ――――