みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
せやけどウチは一葉のお葬式になんてゼッタイ行かへん。

かというて家でぼぅ~っとしてるなんてことも到底できそうにもあらへんし。

今はこうやって、ただひたすらに泳ぎ続けることしかでけへんねや。

お坊さんが無心になって座禅を組んで悟りを開くように、ウチも無心になって泳ぎ続けとれば、なんや得るモンがあるんちゃうかっていうよこしまな考えもあった。


せやけど……、


雑念が競泳水着を着て泳いどるような今のウチには、無心になろうとしても無心になんてなれるはずものうて、ただ肉体と精神に疲れが蓄積されていくだけやった。



どごっ……



…と、そんときウチの泳ぐスピードが無意識のうちに上がりすぎとったんか、ウチの前を泳いどった若い男のヒトのバタ足に、ウチのクロールの振り下ろした腕が思いっきり当たってもうた。

「す、すんませんっ……」

慌てて謝ると、男のヒトは黙ってクチを真一文字に結んで、また泳ぎはじめた。

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