みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~

「各務くん、なんでこないなとこに?」

「よっちゃんちに行ったら、キミのお姉さんがプールに行ったって教えてくれたとぉ」

「え? ウチに用? …ってか、ごめん……ウチ……一葉とサヨナラするのがイヤでお葬式をエスケープしてもうたわぁ……」

「いいよ、別に。できればオレもエスケープしたかったとぉ……」

その笑顔が悲愴な感じに見えた。

「あのくさ、もしかしたら……よっちゃんには受け取ってもらえんかもしれんけど、今日は一葉の“形見分け”をしようと思ってな」

そない言うて、さして大きくもない紙袋をウチに差し出す彼。

せやけどウチはそれを受け取ろうとはせぇへんやった。

「イヤや、ウチ、そんなんいらん。形見なんてもろうたら、ウチは一葉の死を認めたことになってまう。ウチはいらんさかい、各務くんが自分で使こうたらええ」

「使えるもんなら使いたいけんど、男のオレには使いようがなかとよ」

そない言うて、紙袋のクチを開いて、もう一度ウチに差し出す彼。

「ン…?」

何げに紙袋の中を覗くと、なにやら白っぽい布地が見えた。
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