みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
「美佳ん髪の赤っぽいんは、プールんせいたい! プールん水んカルキんせいで、髪が赤っぽくなっちょるだけんこつたい!」

彼女はウチが言いたくても言えへんやったことを、全部代わりに言うてくらはった。


「か、一葉っ……」

ウチは不良少女と誤解された悲しみと、頬をつままれた痛みとは別の意味での涙を流した。つまり彼女のやさしさが、涙が出るほど嬉しかったってことや。


そーいえば今朝、父に…、

「兄がおらんことなったけん、これからはあたしが美佳を守るとです」

…なんて言うてたけど、今になってみると、各務くんが附属中学に行ってしまって一葉ひとりになったぶん、いなくなった彼のぶんも自分で補わなアカン、っていう気負いが彼女の中にあったのかもしれへんと思う。


「間違っても美佳は、ヤンキーで髪ば染めたりなんかせんとぉ! 証拠が必要なら、週末しかプールには行かんから今日は持たんと思うばってん、明日にでも美佳に“スイミングスクールの会員証”ば持っちこさせるけん! 先生、そんでよかばいね!?」


竹刀を手にした、しかめっ面のめっちゃ怖い帯刀先生を相手にしても、一歩も引かへんオットコ前の一葉やった。


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