みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~

一葉の父親が開業した“各務歯科医院”や。

「各務一葉さん。太宰美佳(ダザイ・ミカ)さん、お入りください」


一葉の名前と共に、受付の若い女のヒトに名前を呼ばれたウチは、待合室の席を立って、診察室へと足を踏み入れた。


せやけど彼女は間違うてはる。


ウチの名前は“太宰美佳(ダザイ・ミカ)”ちゃう。

“太宰美佳(ダザイ・ヨシカ)”や。

彼女はウチの名前を読み間違えたんや。

“美佳(ミカ)”と書いて“ヨシカ”と読ませる、ある意味まぎらわしい名前。


ほんでも、毎日顔を合わせるような相手ならともかく、もういいかげん、いちいち間違いを指摘する気なんてあらへんやった。


ちなみにウチの家族の名前は、ヨソから嫁入りした母=慶子(ケイコ)以外はみんなまぎらわしい名前の持ち主や。

まず父やけど“健”と書いて“ケン”ではなく“タケル”と読む。

そして女子大生の姉は“有紀”と書いて“ユキ”ではなく“アキ”と読む。
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