みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
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「アレ…?」

台風が去ったあとのような静けさを取り戻したわが家のDK(ダイニングキッチン)で、父といっしょにあと片付けをしとったウチは、テーブルの上に置かれとるチェック柄のハンカチに気がついた。

劉揚明さんが忘れて帰らはったんやろう。


今、彼は家を出たばっかりやし、走ればまだ追いつけると思うたウチは、DKの隣室であるリビングルームにおる妹に声をかけた。

「文(アヤ)、あのヒト、ハンカチ忘れてはる。走って、あのヒトに渡してきてあげてや」


ホンマなら未来の奥方である姉が届けるんが当然なんやけど、姉は今しがたおフロに入ったばかりや。


「ヤダ。文ちゃん、いま忙しいさかい、美佳ねーちゃんが行けばええやん」

“忙しい”と言ってはる妹がリビングで何をしてはるのかというと、猫を育てるテレビゲームをしてはるだけや。


妹は白いジャンガリアンハムスターの “ミルク”を可愛がっとるけど、ホンマは猫も飼いたかったらしい。

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