みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
担任の若い男の先生が教室に入ってくる。
学級委員長が「起立!」と号令をかける。
立ち上がる生徒たち。
ウチも立ち上がる。
「べ、別にプレッシャーに思わんでよかけんね! き、来てくれんやったらフラれたっち、き、きれいサッパリ諦めるけん!」
ヒトには“プレッシャーに思わなくていい”なんて言うときながら、いっぱいいっぱいの状態にあるのはむしろ彼自身のほうみたいで、彼は真っ赤な顔して博多弁でイッキにまくし立てるような早口で言うた。
「各務、早く自分の席に戻れ」
先生が彼に言う。
「ホント、負担に感じんでいいけんな!」
言いながら自分の席へと戻る彼。
その言葉にも、表情にも、彼のやさしさが感じられた。
せやかて、それから数日後…、
土曜日午前8時30分の映画館前に、ウチが行くことはなかった。