みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
彼がたった今、ゴミバケツの中に捨てた袋の中には、わが家からの帰りしな、姉が彼に持たせてあげたモノが入っとったからや。
ウチが奮発して料理をぎょうさん用意しすぎたせいもあって、姉は残ってしもた中華料理を、テイクアウトして自分ちに帰っても“家庭の味”が食べられるようにと、彼のために持たせてあげてたんや。
結果的に彼は、そんな姉の思いを無にして、ゴミバケツに捨ててもうたことになる。
せやけど、そのことで傷つくの姉ひとりだけちゃう。
ウチかて傷つく。
あないに「オイシイデス」を連発しながら食べてくれはったウチの手料理を、ホンマはマズイと思ってた、っていうことやさかい。
確かにな、日本の中学生が作ったインスタント料理とゴチャ混ぜにしたような中華料理なんて、本場、香港出身の彼のクチには合わへんかったんかもしれへんよ。
ほんでも、だからって、自分の目の前で捨てられてまうと、さすがにウチかて胸がギュウっと締め付けられるように痛いわぁ……。
…と、そのとき聞き慣れへん着メロが薄暗い夜道に鳴り響いた。