みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~

「まさか、そんなん……“一葉が死にそう”って……う、ウソやろ?」

「ウソじゃなか。ウソでこぎゃんこつ言えん」

「………」

「今日は朝から二人で海ば見に行ってたとやけど、岩場でオレが足ば滑らせて海に落ちてしまって、助けてくれようとした一葉が逆に溺れちまったとよ」

「…っ!!」

ウチは各務くんの言葉に絶句した。

「いまだ意識不明ん状態で、生死の境ばさ迷っとぉと……」


毎年のようにテレビのニュースなんかで夏休み初日の海の事故なんかを耳にするもんやけど、まさかウチの知ってるヒトが実際そんな目に遭うなんて思いもしぃひんやった。

各務兄妹の父親は歯科医師であると同時に、病院の経営者でもあるさかい、お金はぎょうさん持ってはるはずやのに、超がつくほどのドケチ男で、各務兄妹の部屋かてクーラーも付けてあげてへんかったらしい。

夏休み初日の今日は、朝から日が昇ったとたん、ぐんぐんアホみたいに気温が上昇して、クーラーなしではナンもせぇへんでもグッタリしてまうような暑さやった。

部屋にクーラーのない二人が、涼を求めて海に行ったんは、至極当然の行動やわぁ。



< 80 / 142 >

この作品をシェア

pagetop