みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~


「そうやない。甘やかして言うてるんちゃうて、いつまでも相手を許してやらんやったら、自分の中の苦しみもまた、いつまで経っても消えへん、っていう意味や」


「いつまでも相手を許してやらへんと、自分の苦しみもいつまでも消えへん……?」

ウチは父が言うのを思わず繰り返しとった。


「お父はんもな、店長いう立場上、心を鬼にして、パートの主婦さんたちを叱りつけることがあるんや。厳しぅ言うて、叱ってやらんと分からへんことかてあるさかい」

前に一葉と遠足のおやつを買いに行ったとき、ウチはモロにその現場を見てしもうて、ひいてもうたことがある。

「ほんでもな、一度言うたら、それでおしまいや。いつまでも引きずらんと、またケロッとしていっしょに働く。そうせな、相手かて俺の顔見る度に“また怒られるんとちゃうやろか?”って思うやろうし、コッチかて“どーせあのオカンまたヘマやらかすで……”って感じで常に疑惑の眼差しを向けとかなならんことになる」

「………」

「そんなんやったらお互い、ただしんどいだけやろ? オツムん中が常にモヤモヤしてはる状態やさかい、いつまで経っても息抜きもでけへん。そないアホらしいことがあるか?」

“たしかにな”とウチは思った。
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