みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
「なんか……」
「えっ……?」
電話の向こうから父が訊いてくる。
「なんかウチ……お父はんの言うてる意味が分かるような気がするわぁ……」
「ほうか。それはお前がオトナの階段を登っとるいうことやわ」
「おおきに。最初はまた小言のひとつでも言われるんかと思っとったけど、お父はんのしてくれた話、意外とええ話やったし、おかげでウチ、なんかフッ切れそうな気がする……」
「“意外と”は余計や」
「だって、ホンマ、意外やったし」
「まぁ、ええわ。とにかく文から電話がかかってきたら、あんまり厳しぅ言わんと、お前がオトナになって許してやることやで」
「分かってるさかい。それよりお父はん、仕事中に電話なんかしててもええの?」
「ええことあるか!? ほな、電話きるさかい、俺が言うたこと忘れんといてや」
「分かった。ほなな」
「ほな」
父が電話を切り、ウチが受話器を置くと、間髪入れずにまだ電話のベルが鳴った。