みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
それにウチらの場合、別れ方が別れ方やっただけに、そのぶん余計に気まずいものがあるんやと思うわぁ。



「……一葉の様態やけど」

ややあって各務くんのほうが先にクチを開いてくれはった。

「オレが溺れちょる一葉を海から救い出したときは、いわゆる心肺停止の状態で……。だけんど駆けつけてくれた救急隊のヒトたちの懸命な心肺蘇生処置のおかげでなんとか息を吹き返して……。それでも、いまだ意識不明の重体で、生死の境をさ迷ってるってところったい」

そない言うて、ズボンの後ろポケットからデジカメを取り出すと、そのボタンを何回か押して、すっとウチにその画面を見せはる彼。

そこには海の岩場ではしゃいではる一葉のデジタル画像がうつっとった。


「今から2時間前の一葉や」

「すごくええ顔してはるわぁ。よっぽど楽しかったんやろうね?」

「オレの中学も一葉の中学も今日から夏休みやけど、どーせオヤジは歯医者で忙しくてどこにも連れていってくれないからってゆうんで、アイツ、“そぎゃんこつなら自分たちだけで海に行こう”って、オレば自転車の後ろに乗せて連れていってくれたとよ」

「ホンマぁ? 一葉、やさしいなぁ」

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