男と猫。
朝。


高い位置にある小さな窓の
カーテンのすき間から
射し込む日射しが
夜が明けたことを知らせている。

薄暗い
コンクリートの壁の部屋は
うっすら煙が溜まっていて、
ぼんやりと白い。


錆びた脚の
ガラス机の上には
ウィスキーや
ワインといった
アルコールのビンが散乱している。


灰皿から溢れるタバコの山が
この部屋の煙たさの原因だった。


机の前でベッドにもたれるようにして、
つめたいコンクリートの床にペタンと座っている男は
また、新しいタバコに火をつけようと、
アルコールがまわって力の入らない指に四苦八苦しながら、
ライターをつけた。


深く煙を吸い込んで、勢いよく吐き出す。

煙は射し込む朝日に白く霞んで天井に溜まった。


ウィスキーのボトルに手を伸ばすと、やけに軽い。

なくなったな、とおもいながらも、グラスに注ぐ。

ぽたぽたと2,3滴が落ちてくるだけたった。


「んー…」

机の上、机の下、
机の向こう側に転がっているビン、ベッドの上。


どこを見渡しても
どれを手に取っても、
全てのビンは空っぽだった。


「っち」


男は舌打ちを一つすると
気だるそうに立ち上がった。

酔った足がふらふらと縺れる。
飲みすぎより寝不足で視界もはっきりしない。


冷蔵庫をあけると
心地よい冷気が火照った顔を冷やす。

冷蔵庫の前にしゃがみ込んで、しばらく動けない。

冷えた、缶ビールを取り出して、頬に当てた。



不意に、背後で小さく鳴き声がした。


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