スカイ・フラワー
あの大きな別荘に差し掛かる頃、山地は思い出したように言った。

「そういえばさー。何か商店街の洋服屋に、見覚えのある顔見たんだよなー」

「へー。誰だったんだよ?」

「いや、多分見間違いだと思うんだけど、高円寺に何となく見えたんだよな」

「高円寺?」

「うん。まぁ、遠目だったから分かんないけどな」

「ふーん」

程なくして、俺達は別荘の前に差し掛かった。山地は柵越しに別荘の中を伺うように眺めている。

軽くうざったいが、俺もまた別荘に興味があった。

さっき、買い出しに行く前に、敷地内に紫陽花が咲いているのを偶然見つけたのだ。

別に紫陽花に深い関わりはないが、何だか目を惹かれた。

そして、俺はまた紫陽花を見ている。もう八月なのに不思議なものだ。

紫陽花は六月の花だ。だから、もう見れないものだと思っていた。

だから、一層の事、俺は紫陽花を目に焼き付けるように眺めた。


店頭には、真弓さんとお客さんが楽しそうに談笑していた。

「ただいまー!」

山地は気にせず言った。

「おかえりなさい。冷蔵庫に入れといてくれる?」

「はい。わかりました」

山地は走ってリビングに行ってしまったので、代わりに俺が返事をして、お客さんにも軽く会釈をした。

「あら。新しいバイト君?」

おそらく、三十代であるお客さんはニコッと笑って俺に会釈を返して真弓さんに言った。俺はそのまま奥へと歩いて言ったが、
「そうなのよー!」
という真弓さんの声が微かに聞こえた。
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