エル・ヴェナに関する証言
「母さん、どうしたんだ?」
「私はどうなっても構わないけど、真吾には未来があるから……」
「俺の事じゃなくて、母さん自身の気持ちの問題だろ?俺が何も言わないのに俺の事
を……ごめん……」
「真吾の言うとおりだ、しばらくは何も考えない方がいい」

 親父に諭されてから、お袋は自分の部屋を片付けると言い出した。どうやら機関紙
などを捨てるつもりらしい。

「待ちなさい、今の心身でそう言った事がいきなり出来るとは思えない。ここは私の
知人に任せてもらえないか?」
「知人?」
「ああ、月村さんと言う人でな……」

 月村さんとは親父がネットで知り合った人物で、ヘンな本を集めたがる癖のある人
だそうだ。親父は月村さんに電話し、会う日取りなどを相談し始めた。

「月村さんに片付けてもらうまで、機関紙なんかは読まない方がいい。気持ちが揺れ
ている時に読むようなものじゃない」

 親父は、そう言うとお袋の額に軽くキスをした。

 その姿を俺は、どう言うわけか複雑な気持ちで見守っていた。
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