盲目の天使
「ねぇ、プロン様?」
「そうだな。
だが、カナン国を落とした手柄に対しての褒美も、まだやってはおらん。
今、アルシオンを跡継ぎと定めれば、納得のいかぬものも大勢いよう。
そのことは、またそのうち考えておこう」
あいまいな返事をする王に、ソレイユは、眉根をひそめた。
・・まったく、親子ともども、なんと邪魔な連中なのかしら!
自分より、劣り腹でありながら、先に王子を産んだカルレインの母を思い出して、
ソレイユは、心の中で舌打ちした。
なかなか子宝に恵まれなかった自分と違い、輿入れしたとたんに王子を孕んだ、若く美しい女。
必死の思いで王子を授かり、今度こそ自分に幸運が巡ってくると思ったのもつかの間、
生まれた王子は、軟弱者で、今度は、子供の出来に劣等感を持つ羽目になった。
次の子供が難産だったせいで、あっさりと死んだが、もしも生きていれば、自分が殺していただろう。
・・カルレインめ。
このノルバス国の地を踏ませぬために、密かに手のものに暗殺を命じたというのに、
かすり傷一つおわずに帰ってくるとは。
失敗したあの射手たちは、八つ裂きにしてくれる!
女の面影をうつすカルレインに、憎しみのたけをぶつけながらも、
ソレイユは、自分の不機嫌さを上手に笑顔に隠して、プロンにお酒を注ぎ足した。