盲目の天使
「それにしても、カルレイン様というのは、素敵な方ですね」
ルシルの口から出た、“カルレイン”という響きに、リリティスは、心臓が跳ねた。
「素敵?」
なるべく平静を装って、尋ねる。
よく考えれば、自分はカルレインのことを、まるで知らない。
夫となるかもしれない、男の事を。
「はい。私、ノルバス国の王子は、
黒鷲ってあだ名がついていて、とても恐ろしい方だと聞いていたので、
城へ上がるよう言われたときは、震え上がりましたけど、
実際会ってみたら、精悍な顔つきをなさって、
とてもたくましい殿方でしたから、驚いてしまって。
私のような身分の低いものにも、
『王女の世話をよろしく頼む』って、わざわざ声をかけてくださいました。
黒鷲って言う呼び名は、鷲を飼ってらっしゃるからついたのでしょうね」
ルシルの明るい声が、馬車の振動とともに、リリティスの耳へと届く。
・・鷲の名前は、確かジルとおっしゃってた。
リリティスは、初めて会ったときの、獣の鳴き声を思い出して、なるほどと納得した。