盲目の天使
「兄上。
今はまだ、リリティスの目も覚めませんし、
とりあえず王が、急病に伏したことにして、しばらくは、私が王の代行をしますが・・、
私は、王には兄上がふさわしいと、思っています」
カルレインが、口を開きかけたとき、
そろそろ執務のお時間です、
とアルシオンを呼ぶ声で、兄弟の会話は、中断された。
アルシオンは、リリティスの寝台に目をやって、去りがたそうに、立ち去った。
本当に、すまない。アルシオン・・。
カルレインは、何かにつけ、
自分より劣っている弟を、軽視していた自分を、心から恥じた。
“自分より劣っている”
いつから、そう思うようになったのだろう。
なにか、そう思う、特別な出来事でもあったのかと思うが、まるで覚えがない。
いつも誰かに、アルシオンは、軟弱だから、と言われるのを聞いていたような、気がする。
とすれば、自分は、アルシオン自身ではなく、他人の噂で、彼の能力を判断していたのだろうか。
・・やはり、俺の眼(まなこ)は、とんだ役立たずらしい。
立ち去る弟の背中は、いつもよりもずっと大きく見えて、とても頼もしく感じた。