盲目の天使
ですが、と、なおもアルシオンの話は続く。
「今でも、王してふさわしいのは、兄上だと思っております」
「・・その話なら、すんだはずだ」
アルシオンが、王になるにあたり、二人は何度も話し合いを重ねた。
アルシオンは、自分よりカルレインが王になるべきだと何度も言ったが、
カルレインは、それを拒み続けた。
それは、プロン王が、自分の跡継ぎにアルシオンを指名したこととは関係なく、
アルシオンが王にふさわしいと、カルレイン自らが、思ったからだった。
「最後まで、聞いてください」
アルシオンの表情は真剣で、カルレインは、口を挟むのを止めた。
「兄上は、リリティスを連れて、カナンへ行くおつもりだと、聞きました」
「あぁ、明日の朝、出発するつもりだ」
リリティスの体調が戻ったので、カルレインは約束どおり、彼女を故郷へ連れて行ってやるつもりだった。
リリティスは、いまだに、カルレインのことを、何も思い出さない。
カナンへ行くのは、そんなリリティスの心身への負担を、考慮してのことだが、
故国に帰れば、彼女の記憶にも、よい影響があるのではないかという、淡い期待も抱いてのことだった。