盲目の天使
「お前は怖くないのか?」
「私は、目が見えませんから。自分がどんな恐ろしい場所にいるのか、わかりません」
カルレインに問われて、答えてはみたものの、自分でもどうして怖くないのか不思議だった。
ルシルは、さっきから、耳をつんざくような悲鳴を上げ続けているし、
崖の上から落ちてきた石が、カラカラと、
そうとう長い距離を滑り落ちていく音が、聞こえる。
耳が良いリリティスには、その音で、崖がどれくらい深いのか、容易に想像できた。
カルレイン様がいらっしゃるから・・かしら?
リリティスは、自分の背中から回された腕が、しっかりと自分を抱きかかえているのを感じて、
ほっと息をついた。
たくましい胸に全てを預けていれば、怖いものなど何もない気がする。
敵国の王子に対して、なぜそんな安心感を持つのか、
リリティスには、さっぱりわからなかった。