盲目の天使
しんと静まり返った山々は、すでに、何事もなかったかのように、いつもと同じ様相を呈している。
射手がいなくなったのを確認すると、カルレインは、マーズレンに兵士の被害状況を調べるよう命じた。
「リリティス。もう大丈夫だ。怪我はないか?」
岩にしがみつくようにして、小さくなっているリリティスの手を取ると、
リリティスは、カルレインの首筋に抱きついてきた。
「カルレイン様!カルレイン様!」
緊張が緩んで、ぽろぽろと涙が溢れ出る。
死んでしまうのかと思うと、怖くて怖くてたまらなかった。
自分が?
それとも・・・。
驚いたように、目を見開いたカルレインだったが、リリティスの背中をゆっくりと撫でた。
「すまない。怖がらせたな。もう何もないから」
リリティスの髪を梳きながら、唇で涙を拭うと、リリティスが目をしばたかせた。
「どうした?」
「いえ、あの、もしかして、今・・」
リリティスの言いたいことが分かって、カルレインは、にやりと笑った。
「ああ、涙を拭いてやろうと思って、目じりに口付けただけだ」
青ざめていたリリティスの表情が、一気に赤くなり、
カルレインは、くすくすと笑った。