盲目の天使
一度襲撃された後は何事もなく、無事に山脈をくだった。
崖から落ちた3名の兵士は、生きている可能性もなく、結局そのまま放置されることになった。
・・家族がなんと思うかしら。
つい今しがたまで、同じように息をして、自分と同じ“生”という場所に立っていたはずなのに。
一歩足を踏み外すと、そこは“死”という場所に繋がっているのだ。
生きるというのは、綱渡りをしているようなものなのかもしれない、とリリティスは思った。
綱から滑り落ちないように、慎重に、一歩一歩前へ。
渡りきったその先に、何があるのか、わからぬままに。
いや、ひょっとしたら、渡りきったところで、そこには何もないのかもしれない。
それでも、必死にしがみついているその綱から、他人を無理やり引きずり落とす権利など、
どこの誰にもないはずではないか。
リリティスは、亡くなった兵士に、そっと祈りを捧げた。
「襲ってきたあの連中は、山賊だったんですかね?
ノルバス国というのは、そんなに治安が悪いのでしょうか・・」
ルシルは、あの襲撃以降、少し元気がなかった。
危険な旅とは、思っていなかったせいもあるが、ノルバス国の気候が、カナンのそれとは違い、かなり寒いことも関係していた。
「もう、考えるのはよしましょう。きっとカルレイン様が良いようにしてくださるわ」
言葉とは、裏腹に、リリティスは、襲撃されたことの意味を考え、悶々としていた。