盲目の天使
ノルバス城は、山の中腹に、聳え立つ堅固な城だった。
城の後ろと左右を、切り立った崖に囲まれた天然の要塞で、難攻不落と言われている。
「まぁ、空にそびえるような、見事なお城でございますね」
ルシルは、馬車の中から城を見上げて、あんぐりと口を開ける。
「カナンは、平地の中に建っていたものね」
目で見ることはできないが、馬車が坂道を上る感じから、
ノルバス城が、かなり高い位置にあることがリリティスにもわかった。
ずいぶんと冷えるのね。
リリティスは、厚手の布を羽織り、しっかりと手で押さえる。
大きく息を吸い込むと、冷気が喉の奥まで侵入し、思わず身震いした。
でも、空気は澄んでいるのかしら。
カナンの森に包まれた緑の匂いと違い、ノルバスは、空気をはじくと音がなりそうな、清浄な気配がする。
リリティスは、だんだんと緊張している自分を自覚した。
ノルバス王は、どんな方なのかしら。
噂では、戦好きなだけでなく、かなり好色な方だと聞いたけれど。
「着いたぞ」
ぴんと張り詰めた空気を打ち破るように、カルレインの声がリリティスの耳元に響いた。