盲目の天使
ルシルに手を引かれて、リリティスは、優雅に、まるで空気のように体重を感じさせず、ゆったりと腰をおろした。
「ルシル。いつも悪いのですが、食べ物の位置を教えてもらえますか?」
リリティスは、それまでの癖で、無意識に、ルシルに声をかけた。
一人で食べるには、まず、食べ物の種類と位置を教えてもらわなければならない。
「ご自分で、召し上がるのですか?」
目が見えないのに、という言葉を、オルメはかろうじて飲み込んだ。
てっきり、食事を一人で食べられないのだと思っていたから、自分が食べさせる心積もりをしていたのに。
「ノルバス国の食事は初めてですので、あまり、きれいに食べられないかもしれませんが、
なるべく早く慣れたいと思います」
リリティスは、それが当たり前だという風に、口にする。
事実、彼女にとっては、それはすでに心に決めたことであり、特別視するようなことではなかった。
オルメは、ほんのわずかに眉根を寄せたが、リリティスの気がかわらなそうだと察すると、
合図をして、他の侍女たちを部屋から下がらせた。
ルシルは、慣れた様子で、リリティスの前に並んでいるものを手前から順番に、細かく説明する。
その言葉を、リリティスは、ただ黙って聴いていた。