Bitter




気が付くと、



そこは入れないはずの高校の屋上だった。






屋上の真ん中で、俺は座っている。








右肩に感じるわずかな重み。





鼻をくすぐる、柔らかい黒髪。







あの頃と同じ日常。







夢?



もうなんだっていいや。








『ねぇ、私』





『うん』






『線香花火やりたい』




『うん』






『あれ一番好き』





『うん。俺も』






『やろーよ。あ、でもね』




 
『うん』






『夏風邪ひいちゃった』






くしゅっとくしゃみをして、彼女は顔をあげ、
へへっと照れくさそうに笑う。





俺は微笑んで
頭をなでる。








『くしゃみ昨日からとまんないの。

汚れちゃうから持ってて』




『うん』







文子はペリドットの指輪を外し、俺の小指にはめた。






俺は指を見た。





グリーンの石が、キラッと夕日を反射した。






ペリドットは光を放つ。

俺達の光。









もう一度、隣を見た。








彼女はいなかった。







代わりに、出会った頃と同じだだっ広いオレンジが、やけにちっぽけな俺を包み込んでいた。









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