Bitter
私は重い腰をあげて、学校へ向かった。
不思議。
寝ないで話を聞いていただけなのに、すっかり現実と切り離された場所にいたようだ。
歩いている間、交互に規則的なリズムで運ばれる自分の靴のつま先を見つめながら、母の話を思い返していた。
もしこの話が、知らない人のものであったなら、もっと、ドラマや映画を見たときのような綺麗で無責任な涙を流すんだろう。
また、この話がたとえば藤田先生の話であっても、私は今頃わざと人に会わない道を選んで登校することはないだろう。
愛する人というのは『特別』のかたまりだと、改めて実感した。
* * * *
教室の扉の前で一度笑顔を作って戻す。
それを開くと、いつもの面々がわざとらしいほど明るい声であいさつをしてくる。
「おはよ!」
さっきの練習が功を奏して、自然に日常の風景に溶け込んだフリができた。
ユリと亮太のメールは順調らしい。
なんでわかるかというと、ユリが全てのメールの内容をわざわざ報告(のろけに近い)してくるからである。
夏休みの計画などを話す時は私と離れた場所で3人で固まって話すのに、亮太に関する話の場合はこれだ。
まるであてつけのように。
おもしろいメールのときは4人で笑い、脈がありそうなフレーズを見つけてはユリにそれを指摘して喜ばせたりした。
その間、アコとマキが私の表情をよく観察しているのがひしひしと感じられた。
カナに対する隠れた嫌がらせも続けるようだった。