Bitter
結論に達したところで、夢の世界へと移行した。



結論といっても、もちろん自分で考えた末決めた事だが、そうするべきなのだろうと、何かに従うように、あきらめるように、素直にそこに達したものだった。



* * * *




目が覚めると、空の色が変わっていた。




誰かさんに呼ばれたかのように、偶然にもかわたれどきだった。

もちろん、間違った知識の方の。


文子さんと、高瀬と、私だけのかわたれ時。





カーテンをあけるとおばちゃんはいなかったので、また来ますと書置きをして保健室を後にした。






屋上への階段の一段一段を踏みしめ、その音に耳をすます。


それ以外は、私の中で極めて静寂だった。



そして重い扉をあけ、後ろ向きの一人のスーツ姿の男を見つける。



この、階段からこの瞬間までの景色は、毎日変わらぬショートドラマ。

必ず、そこにあるもの。


しかし私は、今日で最後になるかもしれないという覚悟をもっていた。





“最後”というのは、特別な重みを持つものだと、
この風景を目に焼き付けるようにして立っていると、
高瀬がゆっくり振り向いた。



言葉も、形容できる表情もなかったが、それらを介しなくても何かが伝わってきたので、
私は隣に座った。






ここまでは、いつものように。






数秒、目の前に広がるやけに綺麗な夕空を眺めて、息を呑んだ。







高瀬・・・




私は、彼が口を開く前に、

名前を呼んだ。






彼がこちらを見る。






目を合わせる。






そこからは一瞬。







彼の背中に手を回し


思い切り抱きついた。








スーツにしみこんだ煙草の残り香が、鼻を刺激した。


煙草自体は苦手なのに、なぜか心地よく感じられた。



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