Bitter
その日から私は、よく笑い、よく働き、よく勉強し、よく食べた。


高瀬の事を考えないようにするために全てを注いだ。


何も知らない亜子達は、「なんか元気だね。」と驚いて言った。



そんなことをしても胸の中に住み着いた男の存在を消すなどできるはずのない事は、もちろんわかっていた。


特にかわたれどき、教室を出てから私はどうしていいのかわからなくなる。


いつもより早足で校門まで進むものの、いつもそこから屋上を見上げてしまう。

ぽつんと一人、たまたま立ち上がった彼が見えないか目を凝らしてしまう。


そして吸い寄せられる前に走りだす。




* * * *




あっと言う間に夏休みになった。


彼を廊下で見かけることもなくなった私は、より一層勉強とバイトに明け暮れた。


文子さんに指輪をあげる前の高瀬と同じじゃないかと思い、ジュエリーショップにふと立ち寄った。

ペリドットを見つめ、そういえば高瀬の誕生日、知らないやなんてぼんやり思いながら店をあとにした。

そこで我に返ってバイト先へ急いだ。



たまに移動中に、亜子達が三人で遊んでいる姿を目にした。


つきはなされた事実を今さらながら感じて、ひんやりと胸に忍び寄るものがあったが、落ちはじめたらどこまでいくかわからない状態だったので無理矢理口角を上げ、足を早めた。




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