Bitter
ざわめく教室内。

私はカナを追い掛け、名前を読んだ。

しかし彼女は振り返る事無く走っていった。


『——‥‥?』

誰から連絡がきたんだろう。
藤田先生は今グラウンドで体育の授業中だ。





* * *

鐘が鳴った後、高瀬が心配して話し掛けてきた。

彼は藤田先生の件も知らなかったようで、その話をきくと、小さくため息をついた。


『あいつがフる理由なんて一つだろうな。それなら俺に言いにくいのも納得がいく。』

『‥え?』


その時、後ろからちょんちょんと肩をつつかれた。


『なぁカナどしたの?』

亮太だ。

『今その話してたところなんだけど、よくわからなくて‥』


すると亮太は言うのを一度ためらってから、小さく口を開いた。


『あの‥さ。俺みたんだけど‥』


『?』


『さっき、あいつのマスクがぽろって一瞬片方外れて、


‥口にさ、殴られたみたいな傷が‥。』





『————————!!!』


高瀬と顔を見合わせる。





どうして今までちゃんと確認しなかったんだろう。


毎日のように作ってくるあの体の傷‥‥

あれは昔の私と同じだ‥



父親に呼ばれたときの、カナのあのこわばった声‥



私が一言そのことに触れたら、彼女は話してくれたかもしれないのに‥!


一番の支えを失ったときに、一週間も、恐怖しか見えない生活をしていたっていうの‥?


華奈‥‥





その時、携帯が震えた。


受話ボタンを押すと、涙の交じったSOSが聞こえた。



『‥ったすけて!!!!』






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