Bitter
華奈は、荻窪病院の一室で眠っていた。


初め、本人か疑ってしまうほど、綺麗な顔が変わり果てていた。
目がはれ、青あざができ、コットンには血が滲んでいる。


言葉が出なかった。

ただ抱きしめた。



うっすらと目を覚ました彼女は静かに涙を流した。



* * * *




カナの父親の暴力は、1年前あたりから急に増えてきたらしい。

怒りのツボは様々で、料理がまずいとか、電話が長いとか、時にはテレビを見て笑っただけで殴られたという。


カナと電話をした日、西崎夫妻の経営するレストランがつぶれた。


狂った父親のとった行動は、妻と娘を監禁すること。


トイレに行く時と、少しの食事を与える時、暴力を与える時しか扉は開かない。


携帯も当然没収。あのメールはカナを真似て父親がうったものだった。


一週間、カナは毛布にくるまり、父親が階段を上ってくることをひたすら恐れた。

担任や私からの電話があまりに多いため、1日だけ登校を許された。

携帯も持たせたが、警察を呼んだらサイレンが聞こえた時点で母親を殺し自分も死ぬという条件を聞かせて。


実の父親が母の首に刃物をつきつけている図が頭をかけめぐる中、カナは学校に来たのだった。




『じゃぁ授業中のメールは・・』


『・・お父さん。』


そうつぶやきメールの画面を差し出す。



「あの女は逃げた俺はこれから死ぬ今まで悪かった」


『————!』



『あたし・・は・・暴力ふるったって、何を言ったって、お父さんはお父さんだと思うから・・
警察なんて最初から呼ぶ気なかったよ、実際呼ばなかった。

今・・。今を乗り越えればきっと、昔のお父さんに戻ると思って・・。

でも・・死んじゃったら全部終わり・・だから止めたくて・・・。』


聞き取れないほどの小さい声でカナは話す。


『・・・それでお父さんは・・?』


『最悪な場合を覚悟して扉を開けた・・そしたら・・』



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