Bitter
( 私このまま死ぬのかな…?



いいかもしれない。死んだら怖いものなんて何もない。

恐怖も、裏切りも、絶望も、孤独も
届かない愛も。




いいじゃない、最後まで私、性を守ったよ。

私と最後にひとつになったのは貴方。

愛する貴方。


幸せになってね。


ねぇ?琢磨…。)





気づけば父親は笑っていた。

高らかに、笑っていた。




大切な人々の残像が頭の中に現れては消える。



意識が遠のき始めたその時だった。


霞みゆく視界の隅に、あるものがうつった。



血に浸った包丁。



『・・・・・・。』



・・・お母さん・・?



血はその先の庭へのガラス戸まで続いている。




・・お母さん 




 お母さん お母さん!!









どこにそんな力が残っていたのか、カナは父親の急所を思い切り蹴り上げ、怯んだ隙に走った。

めまいでよろけながら外に出る。
父親はすぐ後ろまで迫っていたが、目の前を通ったタクシーに乗りこむ事ができた。

病院とか、警察とか、考える余裕はなかった。

車内で麗に電話をして、意識を失った。



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