Bitter
服を脱ぎ、冷え切った身体にお湯をあてる。

じゅわあ、と氷が解けていくような感覚が広がる。



目の前の曇った鏡にお湯をかけると、
あらわになる自分の白い肉体。


まだここに、私はいる。そんなことを確認して、また曇っていく表面にを見つめた。





それが終わると椅子に座り、石鹸でシャボン玉をつくり始める。


5個成功したら出よう、
と、ぼんやり考えた。




うすいうすい膜は、ほんの小さな刺激で簡単に破れる。


最初から何もなかったかのように。


ふわりふわり。丸い玉は、一瞬で消えた。

いくつもの色を見せながら、一瞬で消えた。



そんなものだった。


綺麗で、愛しくて、ずっと憧れていたものは、



そんなものだった。





三つ目のそれが破れた時、
彼の「香坂?」という声がした。


四つ目のそれが破れた時、「麗?」と名前を呼ばれた。


何も答えずに五つ目のそれが生まれると、
彼が扉を開けた。




彼の目の前でそれは割れた。






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