Bitter
私はその祖母に向かって聞いた。
『父は、どんな子供だったんですか?』
祖母は意味がわからない様子で、『子供・・・子供・・・』とつぶやいた。
『あまり混乱させないでやってくれ』
祖父は彼女の肩をさすった。
『俺達は、でっかい後悔抱えて、生きていくしかねえんだよなあ』
自分に言い聞かせるようにして、母を見た。
なにか自分とは違うものを感じたのだろうか、彼は再び口を開いた。
『なぁ、奈美さん、あんたは俺の息子のために、何かしてやればよかったと、悔いてくれたか?』
問われた母は、言葉に詰まった。
思ってないよ。
私が代わりに答えようかと思った。
祖父は諦めたような顔をして、「恨まれても仕方ないこと、あいつもしちまったんだよなぁ。幼少期の傷を、あいつは乗り越えることが出来ないまま大人になっちまって。
あんたたち親子は、おんなじ目してんだなぁ。
あんたには悪いことしたよ。
麗ちゃんにも。
最後に会った時の、和幸にそっくりだ」
そう寂しそうに言葉を残して、持ち場に戻ろうとした。
その時、祖母が何かを言いかけた。
『かずゆきは・・・』
遠くを見つめて、微笑む。
『不器用だけど、優しい子なのよねぇ』
ひだまりの中にいるようにゆったりと、確かにそう言った。
祖父は顔をさらにしわくちゃにして、こちらに一礼した。
『ねぇあなた、和幸迎えに行く時間よ?どうしたの?』
そんな声が遠のいていくのを聞きながら、一瞬だけ胸の奥が熱くなったような気がした。