Bitter
* * *
意識が現実に戻ると、まぶたの裏の真っ暗な景色が広がった。
胸が重くしめつけられ、いくら呼吸を繰り返しても苦しくてたまらない。
うっすらと目をあけると、見慣れた天井の木目が広がった。
隣を見てみると、寝ている高瀬の手が私の胸に乗っているのだった。
自分の手を重ねてみると、確かな温度を感じた。
それを握ったまま一緒にゆっくり胸から下ろして、もう一度深く息を吸って吐く。
彼の鎖骨に小さくキスをすると、起こさないようにしたつもりだったが彼が心地よさそうな声をあげた。
私と違って、何やら楽しい夢を見ているようだ。
朝起きたとき、自分の肌と彼の肌と布団の繊維が、さらさらと触れ合うのを感じるのが好きだ。
そんな事を思いながら耳をすますと、二人で選んだ木製のアナログ時計がコチコチと時を刻んでいるのがわかる。
大きな鐘の音や拍手は、どこからも聞こえてこない。
昨日の夜飲んだワインのコルクの文字も、いつだかこぼしたコーヒーの染みも、しまりの悪い水道の蛇口も、そのままだ。