Bitter
私は改めてその景色を見渡してみた。
昔いつまでも眺めていたいと願った、空や海、草木や花がある。
そして、遠ざけていた無数の恐ろしい人間達がいる。
しかし、その時にやっと気付いた。
彼らは裸足で土を踏みしめながら、身体は傷だらけだった。
目の前の高瀬、母、亮太やカナも、同じように血を流していた。
それでも彼らは笑っていた。
私の手をひいて、再び愛していると言った。
人は皆、不完全。弱さを持たない者などもいない。
そして、いかなるものも跳ね除ける絶対の武器も、持ち合わせていない。
だから、傷を負わずに生きる道なんて、本当に、ない。
だからこそ一人ひとりが、何らかの方法でバランスをとりながら、この地を歩いている。
涙を流す、虚勢を張る、他人をあざ笑う、わがままになる、弱さを口にしてみる。
方法は様々だ。
私は他に戦っている人間の傷には目を向けず、生み出される行動のみを見て、時として許すことが出来なかった。
自分が被るのは、かすり傷でさえ許せなかったのだ。
彼らに抱きしめられて初めて、そんな当たり前のことに気付いた。
そして、人と共に生きる覚悟が出来たような気がしている。
ちっぽけな自分の胸にも確かに灯る、彼らへの愛というものに気付いたからだ。