Bitter
そんなある日の事だった。




『つーかさ、レイ最近変じゃね?』


時間:12時55分。
場所:女子トイレ。


正確に言うと、私は個室扉の中で、三人はその外の手洗い場の前である。
三人とは別々に来て、扉の中と外ではちあわせてしまったのだ。


扉の鍵に手をかけた瞬間に聞こえてきた自分の名前に、心臓が大きな脈を打つ。



『あーあたしも思った!』
『あたしもあたしも。』


『なんかノリ悪いっつーか。』

『よそよそしいってゆーか?』

『そーそー。あ、ちょっとビューラー貸して?』

『あいよ、てかそれってさ、もともとじゃね?』

『ぷ。だよね、なんかさぁぶっちゃけ合わないとき多いしー。』

『確かにっ苦笑いしてんのバレバレだしっふふ。』

『別に嫌いとかじゃないけどー、なんつーか疲れる。』


“ツ カ レ ル”


その言葉は、耳から胸まで膨らみながら届き、大きく重みを持った。

胸にとどまった石のようなその物体は、とげとげしく、あらゆる臓器を突き刺しているような痛みが広がる。


汚れたトイレの張り紙を見つめながら、いつのまにか私は小刻みに震えていた。




私はこれからどうなるのだろう。

どんどん離れていく。

私がうまく、できないから。




別に、あんな子達そこまで好きじゃない。

特別な思い出とか、救われた事も救ったことも、心通わせたこともない。


でも、“安定”のためには必要なんだ。

私にあのせまい教室で、笑う場所を与えてくれないと困るんだ。


一人でいることは多分苦じゃない。
でも、一人を強いられるのは嫌だ。



移動教室、
体育のグループ決め、
お弁当、休み時間、
三人の後ろ姿、
他のクラスメートの目…

想像しただけで気持ちが悪くなった。



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