Bitter
グラウンドの運動部のかけ声で目覚めると、そこは保健室だった。


目だけ動かして時計を探す。

針が17時30分を指している。

5時間もずっと眠っていたらしい。



そこに保健室の先生が入ってきた。


50代半ばのおばちゃんで、化粧は濃いけど優しいと評判だ。


『気が付いた?お友達と先生が運んできてくれたのよ。
お友達の方は授業が終わってからさっきまでいたんだけど、用事があるみたいで帰ったわ。』


カナと………先生?


『先生って…』


『藤田先生よ。しかしかっこいーわよねぇー力持ちだし!』



期待に反する名前に、私は肩を落とした。


『もう平気なんで帰ります。』


無性に高瀬に会いたかった。


『あ、ちょっと待って香坂さんっ。』

『ん?』


『ちゃんと…ちゃんと寝て、食べるのよ?』

『………。』

『なんか悩みがあるんでしょう。新しいクラスになったし、この時期多いのよねぇ。悩んでいるのは皆同じよ。つらいことがあったら先生に任せて、いつでも相談に…』

『うざ。』

声に出すつもりはなかったが、その言葉はしっかり届き、先生は黙ってしまった。



そのまま保健室を出て屋上へむかう。





「よくある。」「みんな同じ。」

この言葉で安心できるものとそうでないものがあるのに。



大人に特別視ばかり望んでしまうのは、私が子供だからだろうか。




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