Bitter
しばらくそのまま高瀬に寄り掛かって目を閉じ、オレンジ色の海にぷかぷか浮いていた。



私は、彼の隣にいるだけでは満足できなくなっていた。


私の前で、安らいでほしい。

甘えてほしい。

頼ってほしい。

私を、想ってほしい。




叶わぬ願い達が胸の中でうごめいている。




でも


求めすぎてはいけない。



求めた瞬間、失う。
私はそう思っていた。









たまらなくなって、私は高瀬から離れた。




『高瀬、私帰るね。』


『…ん、あぁもういいのか?』



『うん。ありがと。あと……なんか変なこと言ってごめん。』


『変なこと?』


『………。』



『あ、あれか。いーよ、つーか気をつかわせてごめんな。』


『そんなんじゃ・・。』

『ありがとうな。』






そう言って高瀬は私の頭をなでた。



高瀬は私を女として見ていない。


私は彼の大きな手の下でひしひしとそう感じた。





しかし彼はじっと私を見つめた。


彼の目に吸い込まれるかのように私も見つめた。




その瞳が何を訴えようとしているのか必死に感じ取ろうとした。

彼から時々見受けられる、謙虚だが強い意思表示を、できることなら大切に大切に残さず拾い集めたい。
集めたものをこぼさず抱きしめたい。

しかし私には不可能だった。



私は、高瀬の事を何も知らない。


手がかりになるような大事な事は何も—…。




* * *

 





『…じゃ……私…いくね。また…明日。』




『…………あぁ。また。』



やっと高瀬は視線を外す。





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