Bitter
背を向けて歩きながら、張り詰めていた糸が徐々に解けていくのを感じる。
しかし突然呼び止められ、またそれはピンと緊張した。
『お前今日バイトないの?』
『ない、けど。』
『家どこだっけ』
『三鷹だけど…。でもそれが何?』
『ちょうどいい。俺も今日そっちの方に用あるから、乗ってけ。』
『‥‥‥‥‥‥‥‥。』
乗ってけって、
高瀬の車に・・?
『なんだよ、言っとくけど送るだけだからな。』
私の思考を見透かしたように高瀬が口をはさむ。
『‥‥‥っ当たり前じゃん!』
慌てる私をみて彼は意地悪そうに笑った。
そんな表情にも私は惹かれてしまい、なんだか悔しい。
二人並んで歩いたら怪しまれるので、私が先に学校の外に行くことになった。
屋上から現実への扉を開くとき、いつも後ろ髪を引かれていた。
時間が経つことを恨んでいた。
日がなぜ沈んでしまうのかとか、馬鹿みたいに当たり前なことも私にとっては重要だった。
今日はまだ彼の隣にいられると思うと、死刑執行が延期になったような気分でその動作がこなせた。
だからこそ、まだぼんやりした頭でいたので、次に目に飛び込んできた光景を理解するのにはとても時間がかかった。
『香坂・・?』
扉を開けたら、そこに藤田先生が立っていたのだ。