Bitter
* * *


『でもまさかカナと藤田先生が付き合ってたなんてねー。それも一年も前から。』




私は高瀬の車の中で話し掛けた。


緊張のせいか少し声がうわずる。




『俺は知ってたけどな。』



『え!』



『屋上にあがりかけて二人がいちゃついてるの見て下りてった事が何度かある。』



『そうだったんだ。見つけたのが高瀬でホントによかったね‥あ、その角を右に曲がってください。』

『あぁ。』





* * * *






『琢磨、言っておくが俺はたまたまこいつがお前の鍵拾って入ってきて、悩んでそうだったから相談にのってただけだ。お前みたいに手を出してはいない。

こいつに変な感情もってないし、鍵を持たせる事以外に咎められるような事はしてないからな。』


『‥‥‥‥‥‥‥。』



高瀬は、当たり前のように正しい事を言った。

ありのままの事を。


私達の関係は確かにキレイだ。

だけど、キレイ過ぎるから、何もないから、高瀬は本当にに私に執着はないんだと、感じた。


わかってはいたけど、なんだか痛かった。




『わかったよ・・。じゃぁこれからはお互いそういうの無し・・でいいか?』

藤田先生がしぶしぶ尋ねる。

『あぁ。』

高瀬が毅然と答える。



あぁ。あなたはそんなにすんなりYESと言うのね。



そこでうなったのはカナだった。



身体が触れ合わなくてもいい、ただ私や高瀬と同じように話をするだけでもいいから、と
涙を流した。




『こいつも、人間関係でそうとうキてるから・・』


藤田先生がそう高瀬に耳打ちするのが聞こえた。






結局、私が持っていた鍵を藤田先生に返し、お互いのことは黙認する、という結論に達した。


今度こそ本当の死刑執行を延期されたような気がした。




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