Bitter
『なぁこの道ずっとまっすぐでいいの?ちゃんと言わなきゃわかんねーよ?』




『‥まだまっすぐ。あの信号で左。』




『‥‥なに急に怒ってんの。』


『別に怒ってない。』



『‥ま、いーけど。』



『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。』





なんだか空気を悪くしてしまったような気がしたので視線を外すと、今度は大量のタバコの吸い殻に目がとまる。




『‥‥‥高瀬、タバコ吸わないの?』




『‥ん?あぁ生徒の前では吸わないことにしてんだよ。』





‥‥‥‥“生徒”





その単語に、ひんやりと突き放す威力を感じる。




『‥吸っていいよ。』



『え?だから今—‥』


『いいって。ガキ扱いしないで。』



『‥‥。』




前を見ながらつんと言うと、高瀬はちらっとこっちを見て、タバコを取り出した。


『けむたかったら言えよ。』

『平気。』



彼は窓を細く開け、タバコをくわえて火をつけた。



その一連の動作はとても手慣れている様子だ。



高瀬の口から出る煙が私の鼻を刺激する。



(‥あ。さっきのスーツの匂いだ‥)



私は少し心地よくなって、すーっとそれを吸い込んだ。





『‥ぅゴホッゲホッ!』



『うわっだから言ったろ!』


『ゴホッちがっコホッ‥たまたまだよ、大丈夫だもん!』




彼は私の言葉を無視してタバコをもみ消し、窓を大きくあけた。


私は咳で涙目になりながら、握る手に力を込めた。





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