Bitter
母は、隠すことを諦めたようにため息をついて続けた。
『その後‥あいつ脱け殻みたいになって‥弱った嘉人に言い寄る女はたくさんいた。昔からモテたからね、あいつ。
でもその女達とは体のつながりだけで、それ以上を求める女は次々と切り捨てていった。
私はフミコの友達だったから、あいつのアネゴみたいな存在で、フミコ死んでからもそんなあいつ見てて‥。
私は私で夫の事で悩んでて‥いつのまにかそういう関係になったの。』
私はずっと、彼を苦しめるものは何なのか、考えてきた。
(付き合ってた彼女が死んじゃったとか?)
なんて、ドラマでよくある発想をした事がないわけではなかったんだ。
でも
‥実際にそうだと言われると‥‥それは弾丸で打ち抜かれたような、想像以上の衝撃だった。
『‥‥当時のこと‥‥‥聞かせください‥‥。』
あんなに知りたいと思っていた、高瀬の過去。
『知ること』をこれほど怖いと思ったことはない。
でも、覚悟はできていた。
私はまた、目に力を込めて母親を見た。
母はタバコの火を消し、ゆっくりと語り始めた。