受胎告知
―存在しない場所―
‐――アダムの為に作られる、
たくさんのイヴ
―――‐さよならエデン
目の前にあるのは、イタリアの有名なアーティストが作ったという、ヴェネチアン・ガラス製の一輪挿し。
口は蛇の頭の形で、艶かしい程に優美な曲線を描いたオブジェだ。
アダムはソファを立ち、それを掴み上げると、おもむろに手を
―――‐離した。
まるで悲鳴の様な音を立てて、重力に従い落下したそれは、既に花瓶とも呼べない姿に化していた。
幼い頃から、壊と汚に対して衝動的だった。
滑らかで、なんの跡もついていない雪に、自ら踏み付け足跡をつけると、ぞくぞくとしたものだ。
理性などは、存在しない。
真っ白で無垢な存在を真っ黒に汚すこと、感嘆する程に美しい物体を壊すことは、性格、個性、感性云々ではない。
本能が、“そうしろ”といって止まないのだ。
「アダ…ム、こわいことはやめて‥‥」
「何がだ?」
「昨日っ…みたいなのは…や、だ」